PHR協会では、PHR、(Personal Health Records)の目的を「個人の健康・医療・介護データなどを総合的に管理し、長期間、経時的に参照することにより、個人の健康増進や疾病の予防・管理・治療などを通して、個人の健康増進を図ること」を目的とし、これを管理するシステム全体をPHRと定義している。PHRの収集・蓄積とその活用が個人の健康管理に有意義であることは大方の一致するとろであるが、そのシステムの構築コストに見合った活用の有効性については、十分な議論がなされないまま、長い年月が流れている。近年、国からもPHRの創設による健康管理が「データヘルス改革計画」などにより、推進されつつあるが、それら国の施策も念頭に置きつつ、実名・匿名化・健康づくりの3種のPHRの利活用の汎用化・広範化とその有効性への考え方を、実績面や将来性を含み、議論する。
国立病院機構(NHO)では、SS-MIX2データを収集活用することに加え、標準的なSS-MIX2モジュールの普及促進を目指した大規模診療データベースを構築し、運用している.診療情報のデータ利活用は、臨床疫学、薬剤疫学、レギュラトリーサイエンスなどの各分野で大きく進展してきており、とりわけ医療情報データベースを用いた観察研究は、ランダム化比較試験のサンプルサイズ・観察期間では検出されないレベルの稀なアウトカムの研究や日常診療下における実態調査に適しているとされている。一方で、明確なリサーチクエスチョンを背景に計画されたコホート研究や疾患レジストリーと比べると、情報の正確さや詳細さが不十分であり、必要な交絡因子の情報が不足していることが弱点であるとの指摘もされている。こうした指摘は、データ2次利用者からの質担保の要求・要望であり、きわめて重要である。しかし現実問題として、RWD(Real World Data)であるがゆえに、データ発生の現場において通常診療を行う上では不必要とされる入力作業の追加は過負担となり、許容される状況にはないのが実情である。
われわれNHOにおけるNCDAおよび診療情報報分析システム(MIA:Medical Information Analysis databank)を運用していく上で、質担保と現場負担の最小化の両立を行うためどのような課題があるか、多様な立場からの意見を紹介し、かつ今後の取り組みの検討状況もあわせて紹介することで、われわれの経験をもとに広く普及促進に努めるものである。
本チュートリアルでは、次世代標準規格として注目されているHL7 Fast Healthcare Interoperability Resource(FHIR)を各自で導入する手段について、ハンズオン形式でサンプルコード作成を体験する。
FHIRが注目されている理由は、その相互運用性の高さ、つまりシステム間でデータを交換する際のAPIとしての実用性を備えていることにある。医療情報システムでは、例えば双方向にデータを連携するEHRへの応用が期待されるが、それに限らず健康や介護との連携にスマートフォンやIoTデバイス等を活用する際にも力を発揮するものと考える。
本チュートリアルでは、まずFHIRについて概説したのち、「DIY(Do It Yourself)で作る」をキーワードに、FHIRを介したデータ連携のサンプルコード作成をハンズオン形式で進める。FHIRについては、その根幹となるフレームであるJSON(JavaScript Object Notation)とREST(REpresentational State Transfer)を紹介した上で、検査項目を実例として基本的な仕組みの解説から始める。サンプルコードの作成には身近なプログラミング言語であるVBAを用いるため、情報システム初心者やFHIRを知らない方にも参加いただける内容であると考える。また、FHIRのような枠組みを導入するには、どのようなプログラミング・データベース技術が求められるのかについても、将来展望を含めて紹介する。
前述の通りFHIRはDIYに適した規格であり、アプリ開発のように様々な機能を自ら開発したり、幅広いベンダからオープンに開発を募ることも可能となる。一方で「8割を表現する」と言われるように、網羅性の担保はされていないため、医療情報を扱う際には注意も必要となる。本チュートリアルは、まず「FHIRをどう使うのか」「何ができるのか」を知るための1ステップであると認識いただければ幸いである。